担任の先生の話はいつも面白く興味深い。だが喋り出したらやたらと長い。
その日も「最近ダイエットに興味あるのよね」と語っていたのだけれど、別にそれほど太っているという印象はないし世間にはもっとなんとかしなきゃいけないのがたくさんいると思うんだよね。
まあそこは別にスルー気味で受け流してたんですが、
次の瞬間とてもスルーできそうにもない発言が鼓膜へと飛び込んできた。
「最近じゃ
ビリーズ・ブートキャンプってのが流行ってるみたいね。」
びび、ビリーズ・ブートキャンプだってぇえええええええ!?
「そ、それはどういうのなんですか・・・?」
「ビリーさんと一緒にひたすらエクササイズよ!エクササイズ!」
「へぇ・・・そうなんですか・・・」
「ビリーさん、最初は優しいけど2、3日過ぎると厳しくなっていくんだよねー」
確定。ガチです。ガチで担任がビリーズ・ブートキャンプの信者でした。
ビリーさんといえばケーブルテレビでアニメを見ていると隙あらばCMで登場し「これであなたも痩せられる!」を連呼しながらひたすら踊り、僕の心を鷲づかみにしていった男。すごいよビリーさん。それだけ激しい運動で痩せられなかったら嘘だね。
とはいっても慣れてみればそれもただの邪魔なCMのひとつにしか過ぎないわけだ。とにかくうざい。CM長すぎる、はやく続きを見せるんだ、続きを。CMに対しての嫌悪がそのままビリーへの嫌悪へと変わるまでにそう時間はかからなかった。ビリーさん消えてくださいお願いします。
そんなビリーさんをまさか身近でしかも担任が知ってるなんて思いもしなかったわけで。その上、信者。世の中はまだまだ分からないことだらけですね。
といっても本人は否定していて「これは友人の話だから」と慌てて付け加えていたけど、そのわりにはアンケートに答えれば5000円キャッシュバックだとか、ずいぶんと詳細な部分を嬉々と語っているその姿はもう僕らの知っている担任じゃなかった。
「あの動きはまさに画期的よ!」
目が爛々としている先生。そしてあろうことかそれを聞いていた友人も「父親がこの前Winnyで落として実践してたよ」なんてさらりと言い出した。父親て。ウィニーて。僕の知らない間にこのクラスは着々とビリー色に染まっていたというのであろうか。
もう誰も信用できない。どいつがビリーの手先か分かったもんじゃない。
「それでさ昨日のドラマだけど・・・」
「失礼ですが・・・信者じゃないという証は?」
「はぁ?」
(こいつも駄目か・・・もう俺に残っている居場所は・・・ない)
とにかく憂鬱です。四方八方敵だらけ。みんな騙されてるんだ。目を・・・目を覚ましてくれよ。ちくしょうビリー。お前はどこまで私から奪っていけば気がすむんだ!私は違う。簡単に口車に乗せられるお前らとは違うからな!
担任「おなかのたるみが気にならなくなったのよね」
今度パンフを取り寄せてみようと思う。はあ・・・憂鬱だ・・・。
しかしそれより憂鬱な出来事が午後に待っていた。水泳。先日、晴れて水泳の授業が始まったわけだけれど案の定、平泳ぎは無理でした。しかも完璧に泳げないわけではないから余計タチが悪い。必死にバタバタもがけば進むことは進むんだよね。
異常に遅いし、クロールの比ではないほど疲れるんですが。
それと「やっぱり平泳ぎは楽でいいな。それに比べてクロールは(笑)」なんてことをあろうことか私の目の前でほざいてた彼は社会的に抹殺しておきました。君のお父上が悪いのだよ。
しかしグダグダいってても仕方がない。解決法を模索しなければ。
考えた上、スタートのときの蹴りを出来るだけ力いっぱい蹴って少しでも長く距離を稼ぐしかないという無難な結論に落ち着いた。だけどそれが一番確実なんじゃないかな。あのくらいの距離ならそれで半分近く距離を稼げるわけだし。
現にその日までの水泳は何とかそれで乗り切ってましたからね。平泳ぎなんて出来なくたって何とかなるってことですね。よーし今日もがんばっちゃうぞー。的なノリで過ごしていたら授業ぎりぎりに忘れ物していることに気づいた。忘れてはならないとても重要なものをだ。てか水着だ。これはかなりやばい。
出来れば「水着忘れたんで見学しますー」って展開は避けたいんです。休んだ分だけ放課後に補講があるわけだし。それだけは勘弁。だけどもう授業は始まる寸前で取りに帰るのも親に持ってきてもらうことも不可能ときた。
どうしようもないので知り合いの水着を借りました。もちろん使用済み。存分に濡れてる。それでいて仄かに生暖かい。
でも問題はそんなところじゃなくてものすごくサイズがでかいです。正直自分にはブカブカ過ぎる。急いでたとはいえ何でガタイのでかいあいつに借りてしまったんだろうか。
でも安心。紐を限界まで振り絞ってきつく縛ればなんとかなるだろう。
なんとかならなかった。紐が通ってない。縛れない。
つまりブカブカのまま。つまりこれは確実に泳げば脱げる。
頑張って泳ぎきった先にはどこからか通報を受けたポリスメンが待ち構えていて素早く手馴れた動作で露出狂を連行していく。ていうか歩いてるだけでもずれそうなんすけど。泳ぐとかいう以前の問題なんですけど。
「・・・変態」
「ついに本性を現したか・・・」
「ねーよwww」
周りに散々爆笑された後「もういっかな、どうなっても」と落ちるとこまで落ちる決心をしかけていたところでなんとか打開策を発見。
長い紐を見つけ出して水着を横に引っ張り、引っ張った部分を端で括りました。
これでも結局ずれるだろうけどないよりはマシになったと思う。
「次の人、泳ぎなさい」
出番が来た。いつも通り力を込めたスタートダッシュを・・・
できない。確実に脱げる。私には分かる。隣では女子も泳いでるしホントそれだけは気をつけなきゃいけないのでとにかく慎重に泳いだ。
でもいくら慎重になろうともやはり平泳ぎが出来ないことには変わりないわけで。もっと真面目に練習すればよかったと今頃後悔しても、もう遅いんだろうな。
ただでさえ遅いのに慎重にいってるもんだからあっという間に最後尾にまで追い抜かれて一気に晒し者に。これはこれで恥ずかしいから。周りなんて見えないのにすごく視線を感じてる気がする。
そう考え出したらもう慎重なんていってもいられなくなってとにかく無我夢中で泳いだ。フォームはグチャグチャだったろうし、足首を意識しすぎて攣りそうにもなった。それでもただひたすら何も考えず泳いだ。
着いたとき、周りから笑い声が聞こえたけれどもうなんとも思わないし、後悔もしていない。あの時自分は、平泳ぎを上手く泳ぎたいと強く願い、それだけを考え必死で泳いだ。そして目標が出来た。この夏で絶対平泳ぎを習得してやるって目標が。
だから今は、遅いからって笑われようともう気にはしない。どんとこいだ。
「何とでも言うがいい。もう気にしないことに決めたんだ」
「じゃあ言うけど、泳いでたとき、見事なまでの半ケツだったぜお前。」
「汚いケツだったな」
「腹筋壊れるwwwww」
終わった。確実に。
ビリーさん、お願いです、逞しいお尻を!ヒップのシェイプアップを!
社会に出しても恥ずかしくないようなお尻への変貌を至急頼みたいんだけど!

後半で企画について。
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